みなさんは「メメント・モリ」と「カルぺ・ディエム」というラテン語のフレーズを聞いたことがありませんか?
どちらも「今を大事に生きなさい」とわたしたちに教えてくれる言葉です。
この記事では「メメント・モリ」と「カルぺ・ディエム」について解説します。
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メメント・モリ
メメント・モリ(memento mori)は、ラテン語の警句で
「いつか必ず来る死を忘れるな」という意味です。
わたしたちはいつか絶対に死ぬんですよ、と警告してくれる言葉なんです。
そのいつかは、あなたが100歳の誕生日を過ぎたときかもしれないし、明日かもしれません。
いつかはわからないけど、確実にわかっているのは、わたしたちは絶対に死ぬということです。
メメント・モリは黒死病をきっかけに広まった
「メメント・モリ」のフレーズをヨーロッパの人々が口にするようになった背景には、
14世紀中盤にヨーロッパで大流行した黒死病(ペスト)があります。
イタリア・トスカーナ地方のフィレンツェやシエナでは、
お金持ちも貧しい人も、年老いた人も若い人も、バタバタと亡くなっていき、
街の人口は約半分に減ってしまいました。
黒死病の時代を生き残った人たちは、
人間が身分や性別や年齢に関係なく突然あっけなく死んでいくのを目撃し、
「死」が誰にでも平等にやってくるのを目の当たりにしました。
そして、もしかしたら自分も死ぬのかもしれない、と思ったのではないでしょうか。
このような暗い背景から、人々は「メメント・モリ」「死を忘れるな」という警句を心に刻んだのです。
「死の勝利」とメメント・モリ
14世紀の黒死病の流行後に「メメント・モリ」が広がったのと同時に、中世美術に登場したテーマに「死の勝利」があります。
15世紀頃には、ピサの斜塔で有名なピサのドゥオーモ広場内にあるカンポサントの壁画など、イタリアでフレスコ画のテーマとして発達したほか、
16世紀に描かれたオランダのピーテル・ブリューゲルの作品もよく知られています。
「死の勝利」には、骸骨などで擬人化された「死」が、様々な身分や貧富の差のある人々を支配したり打ち倒す様子が描かれています。
そして、それを見るわたしたちに、死は誰にでも平等にやってきて避けることができないものであることを伝えてくれるのです。
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カルぺ・ディエム
「メメント・モリ」とあわせて覚えておきたいのが「カルぺ・ディエム(carpe diem)」です。
カルぺ・ディエムの意味は「その日を摘め」。
英語では「seize the day」と訳されることが多いので、こちらを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
カルぺ・ディエムは、古代ローマ時代、紀元前1世紀頃の詩人・ホラティウスの『歌集』(Carmina)に登場するフレーズです。
「Carpe diem quam minimum credula postero」
「明日のことはできるだけ信用せず、その日の花を摘め」
ホラティウスは、この詩全体で、わたしたちがいつどのように死ぬかは神のみが知ることなので、それを知ろうともがくよりも、どのような死でも受け入れる覚悟でいること、
そして、短い人生の中の未来に希望を求めて生きるよりも、一日一日を充実させて生きていく方が賢明であると歌っています。
花、骸骨、砂時計の意味するもの
あなたがヨーロッパの絵画を見るのがお好きなら、花や果物などの静物画に骸骨がよく登場するのを不思議に思ったことがありませんか。
たとえば、フィリップ・ド・シャンパーニュの『ヴァニタス』(上)には、一輪挿しのチューリップの横に骸骨、そして砂時計が描かれています。
描かれているものそれぞれに意味があるのですが、何かわかりますか?
まず、花は「Life(人生、命)」を表しています。
真ん中の骸骨は「Death(死)」、
そして砂時計は「Time(時、人生に与えられた時間)」 を示しているのです。
ですので、この絵は、今美しい盛りの良い時間を過ごしている人にも、死は必ずやってくるので、時間は限られている、ということをわたしたちに伝えてくれているのです。
絵の中の砂時計を見てみると、
砂時計の中の砂の量はあなたの生命に与えられた時間、
下に落ちた砂はすでに過ぎ去った時間、
そしてまだ落ちていない砂があなたの人生の残り時間だということがイメージできると思います。
そして、骸骨は一般的には不吉なイメージを持つものですが、
実は、わたしたちに「メメント・モリ=死を忘れるな」と語りかけてくれるありがたいシンボルなのです。
もしあなたが、今まで骸骨のモチーフを見かけて、嫌だな、気持ち悪いな、と思っていたなら、そう感じる必要はないのです。
そのかわり、「メメント・モリ」をリマインドしてくれるシンボルだと思えば、もうあまり嫌悪感を感じなくなるのではないでしょうか。
明日死ぬかもと思って今日を大事に生きる
メメント・モリ「必ず来る死を忘れるな」と、カルぺ・ディエム「その日を摘め」を心に刻むと、
今という時を大切に生きるという思考が重要だということに気づくのではないでしょうか。
「明日死ぬかもと思って今日を大事に生きる」という考えを持って日々を過ごされている方は、きっと大勢いらっしゃると思います。
この「明日死ぬかもと思って今日を大事に生きる」方法の正解はひとつではありません。
それは、あなたにとって家族と幸せに過ごすことが大事なら、サービス残業を今日からやめて、早めに帰宅して家族と過ごす時間を持つことかもしれないし、
「いつかしよう」と思っていることを、今日から始めてみたり、
「いつかやめよう」と思っていることを、今日やめることかもしれませんね。
ポイントはあなたの未来に「いつか」が必ず来る保証はないと自覚することと、
あなたにとって何が大事なのか、その大事なことのためにすべきことは何なのかを知ることです。
あなたにとって大事なことは何ですか?
それはもうすでに心の中であなたは知っていることだと思います。
それを取り出して、整理してみませんか。
おわりに
明日死ぬかもと思ってあなたの今日を大事に生きてみませんか。
そして、あなたが大事な相手もいつか死んでしまうということを心に留めて、その人のことも大事にしてあげてくださいね。
*この記事では下記を参考にしました。
Memento Mori
メメント・モリ
Trionfo della Morte
死の勝利
Carpe Diem
その日を摘め