憧れのクリムトの作品を巡るウィーンの週末、わたしが辿ってきた順に4回にわけてお伝えしています。
- 美術史美術館(Kunsthistorisches Museum)
- オーストリア絵画館(Österreichische Galerie Belvedere)
- ブルク劇場(Burgtheater)とセセッション館(Secessionsgebäude)
- カフェ・ミュージアム(Café Museum)
今日はクリムトファンなら絶対に逃すわけにはいかないオーストリア絵画館(Österreichische Galerie Belvedere)へ行ってみましょう。
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クリムト「医学」
オーストリア絵画館へ向かう道すがら、絵画館のポスターがあちこちで目に入ってきました。
図柄は焼失のため現存しないとされる「医学」の一部分。
描かれている女性は、ローマ神話で健康や清潔さを司る女神ヒュギエイア(Hygieia)です。
「医学」は、クリムトがウィーン大学からの依頼を受けて描いた天井画で、ほかに「哲学」と「法学」もあります。
これらの天井画は強烈な批判にさらされたため、クリムトは制作のための手付金を返金し、「哲学」はクリムトのパトロン アウグスト・レデラー(August Lederer)、「医学」と「法学」はクリムトの友人でアーティストのコロマン・モーザー(Koloman Moser)の手に渡ります。
「医学」はその後ユダヤ人家族に渡った後、ドイツが押収。第二次大戦中はインメンドルフ城(Schloss Immendorf)に保管されていましたが、1945年ドイツ軍によって焼却されたことになっています。
英語版 wikipedia には「破棄された証拠はない」なんて書いてあるので、ついつい、世間の目につかないところで本物がひっそりと残っていたらいいなぁ、なんて思っちゃいますね。
そうだといいなぁ。
参考:Klimt University of Vienna Ceiling Paintings
ベルヴェデーレ宮殿
宮殿が美術館や博物館になっているケースはヨーロッパではたくさんありますが、オーストリア絵画館(Österreichische Galerie Belvedere)(オーストリア・ギャラリー、またはベルヴェデーレ)もそのひとつです。
プリンツ・オイゲン(Prinz Eugen)の命を受け、建築家ヨハン・ルーカス・フォン・ヒルデブラント(Johann Lukas von Hildebrandt…長い)が夏の離宮として建てたバロック建築の宮殿です。
プリンツ・オイゲンの死後、マリア・テレジアの代のハプスブルク家の手に渡り、その後現在のオーストリア絵画館になりました。
クリムトの作品が展示されている上宮(Upper Belvedere)と下宮(Lower Belvedere)を挟んで庭園があり、その眺めはザ・宮殿そのもの!
上の写真は絵画館のバルコニーから撮ったもの。
かわいらしい円錐型に刈り込まれた観葉樹がメルヘンチックですよね。
オレンジ色の屋根の下宮にむかってまっすぐのびる広い道を軸に、庭園が完璧な左右対称になっている様子は、ほっとする美しさです。
ぜひ絵画鑑賞の合間にバルコニーに出て、庭園をゆっくり眺めてみてくださいね。
惚れ惚れしながら貴族気分に浸れますよ!
オーストリア絵画館
もしあなたがクリムトファンで、ウィーンでひとつだけしか美術館に行けないときは、迷わずこのオーストリア絵画館を選ぶことをおすすめします。
クリムトと一緒に語られることの多いエゴン・シーレのコレクションも充実しています(お好きなら…わたしは実は苦手です)。
できることなら、宮殿に1泊して、朝ごはんはこの絵の前、お昼はこっち、音楽はこれ…、おやつはザッハトルテとインペリアルトルテどっちにしようかしら~?うーん決められないから両方持ってきて?と執事に言いつけ、寝るのは天蓋付きのベッドで…みたいなことができたら最高ですよね?
そんな妄想を掻き立てられる絵画館です^^
ではでは、夢のような展示作品の中から選りすぐりをご紹介します。
水蛇Ⅰ
水蛇 I (Wasserschlangen I )、クリムトの作品の中で特に好きなもののひとつなのですが、実物を見て本当によかったと思いました。
というのも、この絵、思っていたよりもの凄く小さかったからです。
え!!! こんなに小さいの!!! とガラスの前に張り付いて、じ~っと観察。
それ以来、大きなサイズに拡大された海蛇はなんか違う…と微妙な気持ちになります。
でも、美しい絵ですので、引き延ばして飾りたくなるのはしようがありませんよね^^
それにしても、絵のスケールを体感できるというのは、美術館で実物を自分の目で見る醍醐味のひとつですね。
ユディト
金と黒い髪のコントラストで、妖艶な表情が目に飛び込んでくるユディト(Judith and the Head of Holofernes または Judith I)。
額縁のデザインも美しいですね。
絵の右下に彼女が持っているのは死んだ男性の頭です。
この絵のテーマはユディト記、以下wikipediaからのあらすじの抜粋です。
アッシリア王ネブカドネツァルが自らに対して協力的でなかった諸地域に討伐のための軍隊を差し向ける。
そこでユダヤにはホロフェルネスが派遣され、彼はベトリアという町を囲む。
水源をたたれたベトリアでは降伏を決意するが、美しい女性ユディトが一計を案じる。
彼女は敵のホロフェルネスの陣営に忍び込み、すきをみてホロフェルネスの首をとってきたのである。
こうして司令官を失ったアッシリアの軍勢は敗走した。
ほぉ。
ユディトはユダヤの町を救った勇敢なデキる美人女性だったんですね~。
わたしがこの絵で好きなのは彼女が身に着けているチョーカーです。
自分の首には似合わないけれど、素敵だなぁと惚れ惚れしてしまうデザイン。
ムリヤリ拡大してみると、ルビー、サファイア、オパール、ダイヤなどいろいろな宝石が描き込まれているのがわかりますね。
クリムトの絵にはほかにも素敵なアクセサリーがたびたび登場しますので、そんな細部に注目するのも楽しいですよ。
接吻
2017年から宮殿内で多くの写真を撮れるようになったそうですが、わたしが行った当時は写真撮影禁止でした。
特に「接吻」前では警備員が監視の目を光らせていて、人混みに紛れてこっそり写真を撮ろうとしている人は容赦なく注意されていましたね。
(ですので、この記事の絵画の写真はパブリックドメインからダウンロードしたものです。)
でもね、わたしは、その日写真を撮れなかったのはそれはそれでよかったかなと思います。
というのは、本物をこの目に焼き付けよう、この絵を味わいつくそうと「接吻」の真正面のソファーの真ん中に陣取って、惚れ惚れしながら延々と眺めるという幸せな時間を過ごせたからです。
「接吻」はこの記事で紹介した「水蛇」や「ユディト」などクリムトの特に有名な作品ばかりが集められた部屋にあり、「接吻」だけが壁の一面を独占していました。
今でも、黒い壁にかかる「接吻」(180cm × 180cm の大きめの絵です)と、その前を行き交う団体の旅行客、
左横に立って目を光らせていた白人の警備員、
警備員の目を盗んで携帯電話で写真を撮ろうと試みるひと…
そんな様子が映像で頭に浮かんできます。
連れは「好きなだけゆっくり見てきたらいいよ」と言って、自分はさらっと一通り見たらあとはどこかで待っていてくれたので、わたしは心置きなく見てまわることができました。
そして、見終わって待ち合わせ場所に行くと、たぶん相当待たせていたはずなのに、「もういいの?もっと見てきていいよ、もう一回行っておいで」と言ってくれるのです…。
まるで心を読まれているかのよう。
わたしは彼の言葉に甘えてもう一度階段を上り、今度は直接「接吻」の前に行きました。
そして「私の席」に座り、満足いくまで「接吻」を眺めていました。
もう午後の遅い時間だったので、人影はまばらになっていました。
他人の靴音がわかるくらい静かになった部屋と「接吻」と警備官。
「接吻」の絵で思い出すのは、こんなこと。
20年以上実物を見てみたかった憧れの絵の前で、わたしは心がいっぱいでした。
あの日、わたしは「接吻」を見尽くしたと思います。
オーストリア絵画館 場所とウエブサイト
Prinz Eugen-Straße 27, 1030 Wien, Austria
ベルヴェデーレ宮殿の上宮側、下宮側どちらからもアクセスできますが、おすすめは下宮側(Unteres Belvedere 矢印を参照)。下宮からまっすぐ庭園をつきぬけて絵画館のある上宮に行けるので、よりドラマチックだと思います。
あと、クリムトファンはギフトショップをチェックするのもお忘れなく。
おわりに
オーストリア絵画館、いかがでしたか?
クリムト詣での真骨頂ともいうべき絵画館。
ベルヴェデーレ宮殿内というシチュエーションも素敵すぎますね。
クリムトと宮殿と中庭、すべてをセットにして、たっぷり時間をとって楽しんでください。
番外編|風景画の部屋
館内撮影禁止だったはずなのに、なぜかクリムトの風景画の展示室の写真がわたしのファイルに…。
まさか…ワタクシが盗撮?!
まさかね。
クリムトは金箔をたくさん使った煌びやかな絵だけでなく、風景画も素敵です。
お見逃しなきよう^^